映画『今夜、ロマンス劇場で』ネタバレ感想〜色恋の衝撃的な結末〜

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

2月に公開された映画『今夜、ロマンス劇場で』を鑑賞しました。

主演は『僕の彼女はサイボーグ』などの綾瀬はるか。坂口健太郎、本田翼らが脇を固めています。脚本・宇山佳佑、監督は武内英樹。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



『今夜、ロマンス劇場で』のスタッフ、キャスト

監督:武内英樹
脚本:宇山佳佑
美雪:綾瀬はるか
牧野健司:坂口健太郎
成瀬塔子:本田翼
俊藤龍之介:北村一輝
山中伸太郎:中尾明慶
本多正:柄本明
吉川天音:石橋杏奈
病室の老人:加藤剛

綾瀬はるかが演じる主人公の名前は、ほぼ作内で出てきませんが「美雪」といいます。

あらすじ紹介

綾瀬はるかと坂口健太郎が共演し、モノクロ映画の中のヒロインと現実世界の青年が織りなす切ない恋の行方を描いたファンタジックなラブストーリー。映画監督を目指す青年・健司はモノクロ映画のヒロインである美雪に心を奪われ、スクリーンの中の彼女に会うために映画館に通い続けていた。そんなある日、美雪が実体となって健司の前に現われる。

出典:映画.com(後半部分省略)

本記事前半では、この引用に基づくレベルでの感想を紹介し、後半部分で鑑賞した方向けの感想をネタバレ含め書いていきたいと思います。

各方面でも高評価でしたが、僕も人にオススメしたいと思える良い作品でした。



昭和中期の映画界

映画を題材にした映画や、映画を撮っているところを撮った、マトリョーシカのような映画はしばしば見ます。

この作品も主人公の牧野(坂口健太郎)が助監督の青年ということで、映画撮影の現場や映画館の映写室などが舞台として出てきました。

坂口健太郎演じる牧野たちの生きる世界が1960年頃カラーテレビが世に出始めて、映画館の存在価値が薄れ始めた頃でもありました。
映画はごくわずかな作品を除いて淘汰され忘れられていく。劇場の観客席をスクリーン側から映して盛衰を表していく手法はとても面白かったです。

映画館がスポーツバーのような雰囲気で、みんなが身を乗り出し熱狂し、タバコをふかしている人もいる。そんな時代があったことを僕たちに教えてくれました。いまや禁煙はもちろん、おしゃべりも厳禁ですからね…

そんな中、牧野はとある古い映画のヒロインに恋をし、夢中になり、彼女がスクリーンの中から飛び出してきます。引用の解説でもありましたが、幽霊や牧野にしか見えない幻影ではなく実体として。

昔の映画のヒロインですから当然、牧野たちが生きる時代との齟齬やタイムラグがあります。そしてそれをこの作品では「色」というキーワードを使ってうまく表現していました。


ポスター
B級映画感たっぷりのポスター。この作品から綾瀬はるか演じるおてんば姫が牧野たちの時代に飛び出してきます。

映画愛を語るほどまでは押しが強くなく、こちらに在りし日の映画界について提示してくれる資料集のような作りでした。

また様々な解説を見ていると冒頭の『ローマの休日』をはじめとして『ニューシネマパラダイス』や『オズの魔法使い』など、過去の名作のオマージュもたくさんあるみたいです。このあたりはわかる人が楽しんでいただければ、作り手の映画愛をより実感できるのかなと。

わからなくても置いてけぼりは食らいません。僕が証明します!

映画について語る映画としては中途半端という評価も目にしましたが、そもそも当時の背景を知らない層にとっては分かりやすくできているのではないでしょうか。

丁寧な作りで当時の映画館、その一昔前の映画館、当時の街並み、当時の撮影セットの棲み分けを上手にしていました。

そのいくつかの世界を牧野の目を通じて一緒に見ていく作業は楽しいものでした。懐古主義に走らずにバランスがとられています。

綾瀬はるかの「しもべ」になりたい

主演の綾瀬はるかが気になる人も多いと思います。

まだ観ていない方向けに言うと、本作の綾瀬はるかはとても良いです。

異世界からやってきたおてんば姫の役ですが、出てきた世界ゆえの儚さが同居しています。語弊を恐れずに言えば『僕の彼女はサイボーグ』と似ていて、人間味のないエイリアンとしての綾瀬はるかはすごく魅力的。

製作側はコメディエンヌとしての綾瀬を評価してキャスティングしたとありましたが、彼女の仏頂面と、可愛さに似つかない乱暴な言葉遣いはたまりません。

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映画『僕の彼女はサイボーグ』感想〜綾瀬はるかの圧倒的衝撃〜

2011年8月5日

共演した本田翼も比較的そうですが、綾瀬はるかは儚さや現実離れした雰囲気を持つ稀有な女優だと思います。お人形さんみたいだから乱暴なセリフを“言わされてる”感を超えて超人化しているんですよね。

女王様キャラで命令口調の一面をこの作品で発見してしまったので、いつか特撮ヒーローの悪役女性幹部なんてどうでしょうか……罵倒されたい……

美雪が着る役中の衣装もまた素敵でした。
貧乏な助監督である牧野がどうしてそんなたくさん衣装を持っているのかということは置いておいて、彼女は様々な服を着て色彩的にも、ファッションでも楽しませてくれました。

私はお姫様だから妥協しない。そんな狙いも感じられました。

服装でいえば、牧野たちが働く「京映」の社長令嬢・成瀬塔子を演じた本田翼の衣装も素晴らしかったです。

白ベースで上品さをキープしつつ、柄やアクセサリーで少し変化をつけておしゃれにすることで、本田翼の持つ透明感やモデルとしての幅を生かしていました。

塔子は純真無垢で凄く良い子だったので、本田翼が好きな方にもぜひ!おすすめしたい映画です。

ナルシスト北村一輝・帰還

印象的だった役者としては、北村一輝も見逃せません。
京映映画の大スター・俊藤を演じた彼もまた良さを前面に出したキャラクターでした。

子供の頃に『夜王』というドラマを見て以来、ナルシスト役と言えば北村一輝か及川光博かと個人的には思っていましたが、今作の北村は半端ないです。

劇中で撮られる映画で「ハンサムガイ」というシリーズものの主役を演じる俊藤の潔いナルシストぶりはまさにハンサム。彼は自分が担がれて神輿に乗せてもらっていることを知っているんですね。

周りがどれほど自分に気を遣っているかも、自分にどれほど影響力があるかもよくわかった上でスターを演じきる俊藤。

その証拠に、彼に無礼を働いた牧野にも一人の男として進言したり、懐の深いところを見せつけます。本人はスターとしての器の大きさとして表現していましたが、おそらく俊藤自身の器の大きさでしょうね。

彼を取り巻く撮影スタッフの機敏な動きにもぜひ注目してみてください。タバコを消す係の人、最初は手のひらで揉み消してるのかと思いました…!特に「京映」で牧野たちの上司を演じた石井正則のキャラクターが良いです。俊藤にはヘコヘコしながらも本当に映画好きなんだなって。

そんなスタッフたちと笑顔で作りあげる映画で主役を張る俊藤はやっぱりスター!

こういう巨星的な存在について回る嫌味な部分もなく、上から目線で話すだけの度量や実績も作品内では描かれているので観ていて本当に楽しいキャラクターだと思います。

ここまで映画の本筋には触れない程度で見どころを載せてみました。
未見の方に少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

それでは以下、ネタバレを交えてもう少し詳しく感想を書いていきます。

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映画のネタバレ感想

以下、終盤のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

カラフルな世界へようこそ

ネタバレなしの紹介ではあえて触れませんでしたが、『今夜、ロマンス劇場で』において一番重要とも言える部分はモノクロとカラーの対比です。

予告編をはじめとして事前情報で取り上げられることも多いので鑑賞前からご存知の方も多かったかもしれません。

異世界からやってきた美雪(綾瀬はるか)の最大の障壁、秘密としてモノクロを使い、極彩色のロマンス劇場ロビーに据える構図は新鮮でした。美雪は壁を指して「これはなんだ?」と問います。

「壁ですか?」

牧野の問いも至極真っ当。しかし美雪が訊いていたものは壁に施された「青」という色でした。


モノクロの美雪の正体がバレる前にメイクでカラー化するという荒技には驚きましたが、それもまたファンタジックな一面でした。Mr.Childrenの「彩り」や宇多田ヒカルの「COLORS」のような概念が本作にはよく似合うんですが、美雪は色の種類を知らないのではなく、色という概念を知らなかったんですよね。

床屋の青白赤を見て「白」を訊いていたので自身を構成していた白と黒(とグレー)についても名前がついていることを知ったんだと思います。

モノや自然に触れながらたくさんの「色」を知っていく美雪。それは隣にいる牧野にとっても新鮮だったんでしょう。

彼がカメラのファインダー越しに捉える美雪と色鮮やかな色彩の数々。それらの写真は、当然ながら時代的にまだモノクロで、アルバムを懐かしそうにめくる綾瀬はるかの愛しいことといったらありません。

牧野の映画世界に色彩が舞い降りるラストシーンには涙が。何十年という時を経て赤いバラが色彩と愛情のスイッチとして入った素晴らしさ。

色の概念は国によって異なり、植生が豊かな日本は色の種類が多い部類に入るというのは聞いたことがある話ですが、この映画では美雪の目を介して僕たちにそれを教えてくれたと思います。
何かを知ることにおいて、その概念を知らないということはある意味最大のモチベーションなんですね。



赤の使い方が印象的だったのも特徴です。

“お孫さん”に涙が止まりません

期待を裏切らずに進んだラブストーリーながらも、1960年の時代、現代と2つの時間軸を使っているので飽きません。昭和を回顧するだけだと、ただのレトロな昔話になってしまう中、現代の看護師(石橋杏奈)がストーリーテラーの老人(加藤剛)に素直な感想や予想をぶつけて我々の代弁者になってくれます。

『今夜、ロマンス劇場で』が泣ける映画であることは確かですが、僕はストーリーテラーの老人・牧野の“孫”が病室に入ってきたところで限界でした。

なぜ、貴女が。

彼女が歳をとらないという形に不意を突かれ、涙が止まりませんでした。

きっと他の人には理解できない二人の関係。どれだけ牧野が歳をとろうとも、牧野と美雪は一生添い続ける夫婦だったんですね。常識の概念から飛躍した、悲しいルールを課された恋。
確かに奇跡と言っても過言ではないと思います。

恐らく牧野は精一杯長生きしましたし、安易に病気やアクシデントの死をちらつかせなかったこともこの作品に好印象を抱く一因でした。
また、『今夜、ロマンス劇場で』には悪役が皆無だったことも気持ちよく鑑賞できた理由だと思います。

敵役を作らなくても、人を殺さなくても、感動的な映画は作れる。そう信じることのできた幸せな2時間でした。

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